オーディオデバイスの歪み率(THD+N)測定
このレシピでは、Distortion Analyzer ウィジットを使用して、オーディオインターフェースやアンプなどの機器が持つ「歪み(ひずみ)」を測定する方法を解説します。
オーディオ機器における「歪み」の少なさは、原音をどれだけ忠実に再生・録音できるかという性能の指標になります。
歪み率(THD+N)とは?
THD+N (Total Harmonic Distortion + Noise) は、信号の「純粋さ」を表す指標です。 純粋なサイン波(単一周波数)を入力したはずなのに、出力にはそれ以外の成分(高調波やノイズ)が含まれてしまうことがあります。
- THD (全高調波歪): 入力信号の整数倍の周波数(高調波)成分の合計。
- THD+N: THD に加えて、バックグラウンドノイズも含めた「目的の信号以外の全ての成分」の合計。
この値が小さいほど(%が低い、あるいはdBの絶対値が大きいほど)、機器の性能が高いことを示します。
測定手順(ループバックテスト)
まずは、オーディオインターフェース自身の歪みを測るための「ループバック測定」を行います。これが、その環境で測定できる限界値(ベースライン)となります。
物理結線と準備
- オーディオインターフェースの 出力 L (または Ch 1) を 入力 L (または Ch 1) にケーブルで直結します。
- Distortion Analyzer ウィジットを起動します。
測定設定と実行
- Signal Generator セクションで以下を設定します。
- Signal:
Sine Wave - Frequency:
1000 Hz(標準的) - Amplitude:
-6 dBFS程度- ※歪みは振幅によって変化します。最大レベル付近では歪みが増える傾向にあります。
- Signal:
- Start Measurement ボタンを押します。
結果の確認
リアルタイムで測定結果が表示されます。
- THD+N: 全体的な歪みの指標です。
- Harmonics タブ: 2倍波(2nd)、3倍波(3rd)…といった成分ごとのレベル(基本波に対する比率)がグラフと表で確認できます。
この数値が、「あなたの測定環境(サウンドデバイス)の測定下限」 です。これより小さい歪みを持つ機器を正確に測ることはできません。
DUT(被測定デバイス)の測定
次に、測定したい機器(DUT: Device Under Test)を間に接続します。
- 接続を変更します:
[出力] -> [DUT] -> [入力] - 再度、測定を行います。
もし、ループバック測定の時よりも歪み率が大きくなっていれば、その差分が DUT 自身の歪み であると判断できます。 逆に、ループバック時と値が変わらない場合は、DUT の性能が非常に高く、オーディオインターフェースの測定限界を超えている可能性があります。
この測定器の限界と注意点
測定方式について
この Distortion Analyzer は、デジタルノッチフィルター という方式で基本波(1kHzなど)を除去し、残った成分をFFTで解析して歪み率を算出しています。
この方式は汎用的で高速ですが、約 -120dB (0.0001%) 程度の測定限界があります。
測定限界の可視化
メインウィンドウ右下のシグナル出力設定を「物理出力」から 「ループバック (Loopback / Virtual)」 に切り替えて測定してみてください。 このとき表示される値(おそらく -120dB 〜 -130dB 付近)が、このアルゴリズム自体の測定下限です。これより低いノイズや歪みは、計算上の誤差やフィルタの限界に埋もれてしまいます。
さらに高精度な測定が必要な場合
-120dB を下回るような超高性能な DAC やアンプを測定したい場合は、Lock-in THD Analyzer (ロックインTHDアナライザー) の使用を検討してください。ロックイン方式を用いることで、さらに深いノイズフロアまで観測することが可能です。
その他の歪み測定ツール
より高度な分析を行いたい方向けに、以下のウィジットも用意されています。
- Advanced Distortion Meter:
- MIM (Multitone Intermodulation): 複数の音を同時に鳴らして、より音楽信号に近い状態での歪みを測ります。
- PIM (Phase Intermodulation): 位相変調歪みを測定します。
- SPDR (Spurious Free Dynamic Range): スプリアスフリーダイナミックレンジを測定します。