高精度なゲイン・位相測定(ロックインアンプ)
このアプリの目玉機能の一つは ロックインアンプ (Lock-in Amplifier) による測定です。
一般的に、周波数特性(ゲイン・位相)の測定には FFT(高速フーリエ変換)を用いた FRA(周波数応答アナライザ)が使われますが、ロックインアンプを使用することで、それを遥かに超える相対精度での測定が可能になります。
なぜロックインアンプなのか?
FFTを用いた測定は高速ですが、測定精度は「周波数分解能(ビン幅)」と「ノイズフロア」に依存します。一方、ロックインアンプは 位相敏感検波 (PSD) という手法を用い、参照信号(リファレンス)と同期した成分のみを抽出します。
- 圧倒的なノイズ除去性能: 目的の周波数以外のノイズを極限までカットできるため、ノイズに埋もれた微小信号でも正確に測定できます。
- 高精度な位相測定: 参照信号との位相差を直接計算するため、FFTのビン境界に依存するような誤差が発生しません。
これにより、0.001dB オーダーの微細な変化も捉えることが可能になります。
測定手順(ループバックテスト)
ここでは、オーディオインターフェースの入出力を直結(ループバック)し、その測定精度の高さを体験するための手順を説明します。
接続とセットアップ
- 物理結線:
- オーディオインターフェースの 出力 L を 入力 L に接続します。
- オーディオインターフェースの 出力 R を 入力 R に接続します。
- (L/R両方でループバックを作ります)
- Lock-in Amplifier ウィジット を起動します。
- Generator Settings (信号発生設定) を行います。
- Mode:
Internal - Output Channels:
Stereo(LとRの両方から信号を出力します)
- Mode:
- Input Settings (入力設定) を行います。
- Input Channel:
Left(測定対象信号) - Ref Channel:
Right(参照信号)
- Input Channel:
測定パラメータの設定
高精度な測定を行うために、以下の設定を推奨します。
- Averaging (平均回数):
10回- 回数を増やすほどランダムノイズが低減し、測定値が安定します。
- BPF Order (バンドパスフィルタ次数):
4次- 急峻なフィルタを使うことで、高調波歪みや不要なノイズを効果的に除去します。
- Buffer Size (バッファサイズ): 最大値 に設定
- Settings ウィジットでバッファサイズを大きく設定してください。バッファサイズが大きいほど、低周波まで安定して測定でき、計算負荷も下がります。
測定の実行と確認
Start ボタンを押して測定を開始します。
- 相対誤差: 適切なループバック環境であれば、0.001dB 程度 という極めて小さな相対誤差で測定可能です。
- 有効桁数の自動調整: 表示される測定値の桁数は、測定値の分散(ばらつき)によって自動で計算 されます。数値が安定しているときは桁数が増え、ノイズが多いときは桁数が減ります。
- 仕組み: 直近の測定値の標準偏差(σ)を計算し、その揺らぎがどの桁で起きているかを特定します。例えば標準偏差が
0.001であれば、小数点第3位が変動しているため、その桁までを表示します(digits = -floor(log10(std)))。dB表示の場合も、リニア値の分散をdB換算の揺らぎに変換して同様に計算しています。これにより、ユーザーは「意味のある桁」だけを直感的に読むことができます。
- 仕組み: 直近の測定値の標準偏差(σ)を計算し、その揺らぎがどの桁で起きているかを特定します。例えば標準偏差が
! Linux環境での推奨設定
高精度な位相測定を行う場合、オーディオバックエンドの安定性が極めて重要です。標準的な PulseAudio や一部の ALSA 設定では、バッファの継ぎ目で極微小な位相飛び(Phase Jump)が発生し、ロックインアンプの精度が出ない場合があります。
推奨環境
Linux で高精度な測定を行う場合は、JACK Audio Connection Kit または PipeWire (Pro Audio設定) の使用を強く推奨します。これにより、サンプルレベルで完全に連続した安定したストリームが保証されます。
安定性の確認方法
環境が安定しているかどうかは、以下の方法で確認できます。
- Transient Analyzer: スカログラフ(時間-周波数グラフ)を確認し、定期的な縦の線やノイズ(アーティファクト)が出ていないか確認します。
- Lock-in Frequency Counter: このウィジットで周波数を測定し、数値が安定しているか確認します。位相飛びがある場合、周波数測定値が断続的に揺らぐことがあります。
さらに高度な測定:FRAモード
単一の周波数だけでなく、周波数をスイープさせて特性を測ることも可能です。
- FRAモード: Lock-in Amplifier の機能を使いつつ、周波数を自動で変化させてグラフを描画します。標準の FRA ウィジットよりも時間はかかりますが、超精密なゲイン・位相特性 を得ることができます。
- 推奨設定: ポイント数を
500点程度に設定すると、非常に滑らかで高精細なグラフが得られます。