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Lock-in Amplifier (ロックインアンプ / 微小信号検出)

Lock In Amplifier

概要

Lock-in Amplifier (ロックインアンプ) は、ノイズに埋もれた微弱な信号から、特定の周波数成分の「振幅 (Magnitude)」と「位相 (Phase)」を高精度に抽出する測定ウィジットです。 物理実験や電子計測で、S/N比(信号対雑音比)を劇的に改善するために使用されます。

一般的なスペクトラムアナライザが「全ての周波数を見る」のに対し、ロックインアンプは「一つの周波数だけをピンポイントで監視する」ことで、圧倒的なノイズ除去性能を発揮します。

ロックイン測定の原理

同期検波

ロックインアンプは「参照信号 (Reference Signal)」と呼ばれる基準の波と、入力信号を掛け合わせることで測定を行います。

  • 入力信号: ノイズまみれの信号 (Asin(2πft+ϕ)+NoiseA \sin(2\pi ft + \phi) + \text{Noise})
  • 参照信号: 測定したい周波数 ff のきれいな波 (sin(2πft)\sin(2\pi ft)cos(2πft)\cos(2\pi ft))

これらを掛け合わせてローパスフィルタ (LPF) を通すと、周波数が一致した成分だけが「直流 (DC)」として残り、それ以外のノイズや異なる周波数成分はすべて交流としてカットされます。 これにより、ノイズフロアよりも遥かに小さな信号を検出できます。

デュアルフェーズ検波

このウィジットは2つの参照信号(SineとCosine)を同時に使う「デュアルフェーズ型」です。 これにより、入力信号の位相がどうなっていても、正確に信号の大きさを捉えることができます。

  • X (In-phase): 同相成分
  • Y (Quadrature): 直交成分
  • Magnitude (R): 信号の振幅 (X2+Y2\sqrt{X^2 + Y^2})
  • Phase (θ\theta): 信号の位相 (arctan(Y/X)\arctan(Y/X))

測定モードの違い

信号源モード

Settings パネルのチェックボックスや接続で切り替えます。

  • Internal Mode (内部モード)

    • 動作: ウィジット自身が信号 (Sine波) を出力し、それを測定対象に通して戻ってきた信号を測ります。
    • 用途: 回路の周波数特性、インピーダンス測定など、自分で信号を出せる場合。
    • 設定: Start Output & Measure ボタンで開始します。External Mode のチェックは外します。
  • External Mode (外部モード)

    • 動作: 外部の装置から「信号」と「参照用クロック (Ref)」の2つを入力します。ウィジットは参照入力の周波数に自動的にロック(追従)して測定します。
    • 用途: 光チョッパーを使った実験や、他の発振器を使った測定。
    • 設定: External Mode (No Output) にチェックを入れます。Reference Input チャンネルに参照信号を入力してください。

動作モード

タブを切り替えることで、定点測定とスイープ測定を選べます。

  • Manual Control (手動測定)

    • 特定の1つの周波数を連続的にモニターします。
    • リアルタイムに数値が変化するため、調整作業や時系列変化の観察(トレンドグラフ的な使い方)に向いています。
    • Harmonic (高調波) 測定: Harmonic 設定を 2 にすると、基本波の2倍の周波数成分(2次高調波)だけを抽出して測ることができます。
  • Frequency Response Analyzer (FRA / 周波数特性分析)

    • 周波数を Start から End まで自動で変化させながら測定します(周波数スイープ)。
    • 結果は Bode Plot (ボード線図) として表示されます(振幅特性と位相特性)。
    • フィルタ回路やアンプの帯域測定に最適です。

重要なパラメータの説明

ロックインアンプを使いこなすための重要な設定項目です。

Time Constant (時定数) と LPF

ロックインアンプの性能は「フィルタの強さ」で決まります。

  1. Integration (積分時間):

    • 1回の測定に使うデータの長さです。
    • Fast (2048): 反応は速いですが、低周波の測定精度が落ちます。
    • Slow / Very Slow: 反応は遅いですが、ノイズ除去能力が高くなります。
  2. Post-mix LPF (時定数 τ\tau):

    • 検波後の信号をさらに平滑化するフィルタです。アナログロックインアンプの「Time Constant」に相当します。
    • LPF Time Constant: この時間を長くする(例: 1 s3 s)と、数値のフラつきがピタリと止まり、極めて安定した結果が得られますが、信号の変化に対する反応は非常に遅くなります。
    • Post-mix LPF Order: フィルタの段数(切れ味)です。通常は 4-pole (24dB/oct) などで十分ですが、強力なノイズを除去したい場合は 8-pole まで上げられます。

Averaging (平均化)

  • Count: 指定した回数分だけ測定データを平均して表示します。ランダムノイズを減らすのに効果的です。

Calibration (校正)

このウィジットでは、測定値の絶対精度を高めるための校正機能が提供されています。

Absolute Gain Calibration (絶対ゲイン校正)

表示されるMagnitude(電圧値)のオフセットを調整し、外部の基準値と一致させます。

  1. Settings パネルにある校正セクションを使用します。
  2. 既知のレベルの信号(例: 1.0 Vrms の正弦波)を入力します。
  3. Target にその値を入力し、単位(dBFS, dBV, dBu, Vrms)を選択します。
  4. Calibrate Absolute Gain ボタンを押します。
  5. 測定値とターゲット値の差分が計算され、オフセットとして適用されます。

Frequency Response Calibration (周波数特性マップ)

測定系の周波数特性(ケーブルやプローブの減衰など)を補正するための機能です。

  • Save Map: 現在の周波数スイープ結果(FRAモードで測定したもの)を校正データとして保存します。
  • Load Map: 保存された校正データを読み込みます。
  • Apply Calibration: チェックを入れると、読み込まれたマップに基づいて、リアルタイムに測定値を補正します。

操作手順

例: フィルタ回路の周波数特性を測る

  1. 配線:
    • オーディオIFの Output 1 (Left) -> フィルタ回路の入力
    • フィルタ回路の出力 -> オーディオIFの Input 1 (Left)
  2. Settings:
    • Signal Input: Left (Ch 1)
    • Output Ch: Left (Ch 1) (または Stereo)
    • External Mode: OFF
    • Amplitude: 回路に適した電圧 (例: -10 dBV)
  3. FRA タブ:
    • Start Freq: 20 Hz
    • End Freq: 20000 Hz
    • Steps: 50 (または 100)
    • Log Sweep: ON (周波数特性は通常ログスケールで見ます)
    • Plot Unit: dBV (または dBFS)
  4. 実行:
    • Start Sweep ボタンを押します。
    • グラフに周波数特性(ゲインと位相)が描画されます。

例: 微小信号の常時監視

  1. Manual Control タブ を開きます。
  2. Frequency に測りたい周波数 (例: 1kHz) をセットします。
  3. Start Output & Measure を押します。
  4. Magnitude にその周波数成分の電圧が表示されます。
  5. 数値がふらつく場合は、LPF Time Constant0.1s -> 0.3s -> 1.0s と長くしていくと安定します。